2019年07月01日更新

物流危機への処方箋 第10回 AIとロボティクスのゆくえ Ⅱ

山田経営コンサルティング事務所代表 中小企業診断士 山田 健 氏

1. 最難関のトラック運送業界

トラック運送業界は物流自動化の本命である。このコラムでも繰り返し紹介してきたように、もっとも人手不足が深刻で、もっとも自動化が難しいのがトラックドライバーの仕事だからである。それでも自動化の芽生えはそこそこに見られてきた。今回は、トラック運送業界のAIとロボティクスを紹介していきたい。

2. 無人配送を始めた京東

まずは自動化の直球ど真ん中「無人配送」である。中国のECサイト「京東商城(ジンドンしょうじょう、JD.com)」を運営する京東集団(ジンドンしゅうだん)は今年1月、中国の長沙市とフフホト市に無人配送を強化する「スマート配送ステーション」を設置した。

京東集団の無人配送ロボット
京東集団の無人配送ロボット
出所:Lnews(https://lnews.jp/2019/01/l0109307.html 新しいウィンドウで表示

スマート配送ステーションとは、ラストワンマイルに貢献する自動物流機能を持った配送拠点のことである。ロボット配送と通常の配送で半分に分かれており、両配送がフル稼働した場合、1日に2,000個の荷物を配送することができるという。
配送ロボットは最大30個までの荷物積載が可能で、半径5km以内を自動で最短ルートを計算し配送するほか、走行中は障害物を避け、信号を認識することができる。配送ロボットには顔認証システムを搭載しており、利用者は指定場所に到着した配送ロボットから簡単、安全、正確に荷物を受け取ることができる。

京東集団は、スマート配送ステーションの設置を京東物流のグローバル化に向けた新たな一歩と捉えており、この小売モデルが各都市に広がり、京東物流が持つ先進技術と培われた経験を生かすことで、世界の物流効率の向上に寄与できるとしている。
日本で同様の自動化を行うには規制などのハードルが多く、先行きは見通せない。その点で、大胆な取り組みを進める中国は物流の無人化に向けてはるか先を歩んでいる。

3. 運送マッチング・ベンチャーが続々登場

より現実的な取り組みとして「運送マッチング・ビジネス」がある。ひとことでいえば「物流版ウーバー」である。貨物を運んでほしい人と運びたい人をネット上でマッチングするサービスである。ネットを利用して空車で運行するトラックの荷台を埋めることができれば、限られたトラックを有効活用することができ、深刻なドライバー不足の緩和につながる、という理屈である。
この分野では異業種からのベンチャーの参入が顕著である。ここで紹介する「ハコベル」は、外資系コンサルティング会社出身の社長が創業したネット印刷会社「ラクスル」の物流サービスである。

ハコベルの運送マッチングサービス
ハコベルの運送マッチングサービス
出所:ハコベル(https://www.hacobell.com/ 新しいウィンドウで表示

主に軽トラックを運行する個人事業主と荷主を直接マッチングする。すべてのドライバーのスマホにアプリを入れてもらい、マッチングを行う。さらにアプリのGPS機能を使って運行状況をリアルタイムで可視化し、何分後に集荷に来るか、何時何分に届くか、PCかスマホアプリを見ればひと目で分かるという。

今年2月からは、軽トラックだけでなく一般貨物(2tトラックや4tトラックなど)を取り扱う運送会社向けに物流業界全体を効率化するための新サービス「ハコベルコネクト」の提供を開始した。
運送マッチングでは、公益社団法人全日本トラック協会が開発し、日本貨物運送協同組合連合会が運営するWebKITが古くから知られている。これは荷主と運送会社ではなく、トラック協会の会員企業である運送会社同士のマッチングサイトである。
こうした既存のサービスに新たな発想によるマッチング・ビジネスが加わることにより、マーケットが活性化される。スマホにアプリを入れるだけで利用できるので中小企業にも抵抗が少なく、トラックの有効活用が進むことが大いに期待できる。

4. 社会全体での負担と無用なサービスの排除

連載の最終回にあたり、筆者が日頃から感じていることを述べてみたい。
これまで紹介した手段はほんの一部であり、いま物流の省人化、無人化への取り組みは驚くほどの勢いで広がっている。ただ残念ながら、これらすべての対策が実行されたとしても、抜本的な人手不足解消には至らないと思われる。それほど業界の課題は深刻である。
どうしてもはずせない「物流危機への処方箋」の第1は「社会全体でのコスト負担」である。ネット通販をはじめとした新サービスはわれわれの生活を一変させつつある。一度体験してしまった便利さを後戻りさせることは難しい。ただ、こうした便利さが誰かを犠牲にした上で成り立つものであってはならない。

ドライバーをはじめとした業界の待遇を改善しないことには何事もはじまらない。とくに賃金面では大胆な改善が必要であり、物流のコストの大幅アップは避けられない。そのコストを一部の業界や企業が負担するのには無理があり、われわれ消費者を含めた社会全体で負担しなければならないことを覚悟するべきである。

第2は「無用なサービスの排除」である。なかでも配送リードタイムである。連載第6回(いまふたたび生協)でも述べたように、受注から配送までのリードタイムに余裕をもたせることによるコスト削減効果、労力負担の軽減効果は大きい。消費者も含め、いまいちど「その商品は本当に今日、明日必要なのか」といった購買の原点に立ち返って見直す必要があるのではないだろうか。

著者プロフィール

山田経営コンサルティング事務所
代表

山田 健(やまだ たけし)氏

Webサイト:http://www.yamada-consul.com/
流通経済大学非常勤講師

1979年 横浜市立大学 商学部卒業、日本通運株式会社 入社 。総合商社、酒類・飲料、繊維、アパレルメーカーなどへの提案営業、国際・国内物流システム構築に携わった後、 株式会社日通総合研究所 経営コンサルティング部勤務。同社取締役を経て2014年、山田経営コンサルティング事務所を設立し、中小企業の経営顧問や沖縄県物流アドバイザー、研修講師などを務めている。
主な著書に「すらすら物流管理」(中央経済社)、「物流コスト削減の実務」(中央経済社)「物流戦略策定シナリオ」(かんき出版)などがある。

山田 健 氏

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