2019年04月10日更新

物流危機への処方箋 第08回 中小企業の事例~出荷ができない

山田経営コンサルティング事務所代表 中小企業診断士 山田 健 氏

1. 物流が足を引っ張る

筆者が係わった中小メーカーA社では、商品が「出荷ができない」「誤出荷が多い」「納期が守られない」といったトラブルに悩まされていた。商品自体は安くて、品質もよく、得意先の評価も高かっただけに、物流が商売の「足を引っ張る」状況は見過ごすことができない。

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中小企業では、こうした事例は決して少なくない。A社もそうであるが、中国やベトナムに製造委託した商品を輸入販売している企業でよくみられる。海外生産で製造原価は低く抑えられる。最近では品質もかなりよくなっているから、顧客の評判もいい。売行きは好調である。
ネックは在庫を含めた物流である。海外の製造委託先は国内のように「必要な分を」「必要なときに」「必要なだけ」都合よく作ってくれるとは限らない。専属工場ではないので、まず早い段階で製造枠を押さえることが必要である。それも、海上コンテナが満載になるように発注量を調整しなければならない。委託先は作ったらできるだけ早く船積みしないと代金を回収できないので、商品は作るそばから船積みされ日本に到着する。
この発注から製造、日本到着、輸入通関、倉庫入れまでのリードタイムは、東南アジアや中国では最低でも2カ月はみなければならない。必然的に日本側の在庫はその分厚めに保有しなければならない。
つまり、国内生産に比べ格段にコントロールの難しい在庫が倉庫に蓄積されていくことになる。

2. 出荷ができない

この膨れ上がる在庫管理を人手で行っているケースが非常に多い。システムを使っている場合でも多くは、販売管理システムなどに付随する在庫管理機能である。前回も指摘したように、こうしたシステムの在庫は「経理上」の在庫であり、売上計上のタイミングなどによって現物とは食い違うことが多い。
実際、多くの中小企業では少なからず「在庫差異」が発生している。倉庫内の在庫ロケーションも担当者の「頭の中」にあるので、出荷時に探すのも大変である。現物と帳簿上の在庫が違っているうえに、置場所も不明確では出荷に支障をきたすのは当然のことである。「運よく」出荷できても、目視による出荷検品では間違いも起きる。
こうして、せっかく安くて品質のいい商品を提供しているにもかかわらず、物流がネックとなり評判を落とす。A社も例に漏れなかった。

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3. WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)が物流を救う

この課題の解決にはWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)が有効である。WMS自体、決して目新しいシステムではなく、物流においては常識ともいえるツールであるが、その割には普及はいまひとつである。とくに中小企業ではその傾向が強い。
一般的なクラウド型WMSの機能を以下に示す。

図表 クラウド型WMSの機能
図表 クラウド型WMSの機能

ポイントは、入荷から在庫、出荷まで商品や外装のバーコードをスキャンすることによって現物単位に在庫を管理していることである。商品バーコードが在庫ロケーションのバーコードと紐づいていれば、出荷時にピンポイントで在庫場所を探り当てられる。誤出荷も防げる。棚卸もバーコードをスキャンすればよいので楽であるし、正確である。実施の頻度も増やせるので結果として帳簿と現物の差異も減る。

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4. システムを軸として業務を組み立てる

こういうと必ず「システムありきでは解決しない。現場の作業の仕方が問題なのだ」という指摘が出てくる。理屈としてはたしかにそうなのかもしれないが、ここでは発想を変えた方がいい。
そもそも標準的な作業方法が確立しておらず、担当者の経験と勘に頼っているために問題が生じているのである。WMSは標準的な倉庫内作業を基本に構成されている。倉庫内のベストプラクティスが盛り込まれているといってよい。
であるなら、WMSを軸に作業を組み立てるのが「ベスト」である。作業にWMSを合わせるのでなく、WMSに作業を合わせるのである。
いまの作業にWMSを合わせようとするために、膨大なカスタマイズが必要となり開発費用も後泊となるケースが非常に多い。間違ったやり方にWMSを合わせるために費用をかけるのでは本末転倒である。
もちろんその企業特有の業務についてカスタマイズすることは必要であるが、極力最小限にすべきである。
「システム」に作業を合わせることがWMS導入のコツである。

著者プロフィール

山田経営コンサルティング事務所
代表

山田 健(やまだ たけし)氏

Webサイト:http://www.yamada-consul.com/
流通経済大学非常勤講師

1979年 横浜市立大学 商学部卒業、日本通運株式会社 入社 。総合商社、酒類・飲料、繊維、アパレルメーカーなどへの提案営業、国際・国内物流システム構築に携わった後、 株式会社日通総合研究所 経営コンサルティング部勤務。同社取締役を経て2014年、山田経営コンサルティング事務所を設立し、中小企業の経営顧問や沖縄県物流アドバイザー、研修講師などを務めている。
主な著書に「すらすら物流管理」(中央経済社)、「物流コスト削減の実務」(中央経済社)「物流戦略策定シナリオ」(かんき出版)などがある。

山田 健 氏

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