2018年01月18日更新

強い会社を創る! 経営の常識と非常識
~経営の視点、ヒトの視点、コストの視点、投資の視点で考える新常識とは~
第02回 本当の経営者の仕事をしていますか?

株式会社ワイズエッジ 代表取締役 経営コンサルタント 清水 泰志 氏

曖昧な経営者の仕事

日本企業と欧米企業との違いはいくつかありますが、人事において日本企業が「職能的」である一方、欧米企業は「職務的」であるという違いはよく聞く話です。職務的な人事制度においては、「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」(以下JD)が不可欠ですが、成果主義制度の導入にともなって作成している企業も多いはずです。
JDは、人事評価のベースになるので、すべての職種と職階に対して網羅的に作成することを基本としています。ところが、JDを採用している企業で、社長の分まで用意されているという話は聞いたことがありません。「JDは、あくまでも人事評価のためのものだから、経営トップである社長のJDは必要ない」
それが、表向きの理由なのでしょう。
でも、本当に自分の職務(=仕事)を定義できている社長が、どれだけいるでしょうか?職能的な人事から職務的な人事へと主張していながら、経営者自身が職能的なまま留まっている企業が多いのです。
たしかに、社長は会社全体を見渡して、必要があれば分野を問わず関わっていくことが求められる立場です。そこで、「社長とは究極のゼネラリストなのだから、スペシャリストの仕事のように簡単に定義できるものではない」と言いたい気持ちはわかります。でも、本当のところは、社長の仕事を定義できでいない言い訳になっていないでしょうか。
経営者の中には、社長の仕事を箇条書きでいくつかの項目をあげられる方もいます。漠然としているよりは良いことなのですが、やるべきと思うことを列挙しているだけで、項目間の関係性まで考え抜かれていないことが多いのです。だから、「それらをまとめて、社長の仕事とは?」という次の問いに答えることが難しくなります。
その結果、会社にたった一人しかいない社長が本来の仕事をしていないために、仮に現在業績が良い会社でも、中長期的に衰退していく可能性が極めて高くなります。

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経営者の仕事を考えるときに必要な二つの“シテン”

経営者が自分の仕事を考える場合、「どういう仕事があるか、具体的に書き出していく」という方法は、現在やっている仕事の分析をする場合にはよいのですが、「経営者として、今後どのような仕事をするべきか」という将来に向けた問いに答える場合には向いていません。どうしても、「経営者の仕事をストーリーとして物語る」必要がでてきます。
そうしたアプローチをとる場合、最初に二つの「シテン」を考えることが、とても大切です。一つ目のシテンは、思考の前提となる「始点」です。経営者の仕事を考える場合、「これから世の中でどんな変化が生じるのか」、「その変化によって企業経営にどんな影響が及ぶのか」に対する前提が違えば、経営者への役割期待も当然異なってきます。前提を「いまは不景気だけど、何年かすればまた好景気になる」とするのか、「現在、主力の事業は5年後に衰退期を迎える」とするのかでは、経営者の仕事内容が同じになるはずがありません。
二つ目のシテンは、考えの糸口にするための「視点」です。自由自在に考えてもよいのですが、自由すぎると焦点が定まらなくなるので、枠組みを設定した方が考えやすいことが多いのです。例えば、「社長にしかできない仕事」VS「社長だからできる仕事」の境目や違いはどこにあるかとか、「短期的に結果がわかる仕事」VS「中長期的に結果がわかる仕事」などの視点が役に立つことが多いはずです。

「これからの経営者の仕事」にたった一つの正解はない

「本当の経営者の仕事とは」という話をすると、「これからの経営において、社長として力を入れるべきことはなにか?」とか「もっと具体的に、これが経営者の仕事だ!というものを教えてくれ」と言われることがあります。その場合は、つぎのことを伝えています。

  • 20年以上昔なら、本来の経営者の仕事には、最大公約数があったので、誰でもこうすべきだという具体的な定義がしやすかった。なぜなら、利益の基本的源泉は「効率」だったからです。
  • 現在、そしてこれからますます、「差別化」あるいは「独自性」を築くことで、競争を勝ち抜き、創出する付加価値を高めようという戦略的経営が必要な時代なので、他人の真似をすることは、戦う前から負けていることになる。他人の真似をするのは、効率がいいからですが、それだけでは利益は出ない時代です。
  • 各企業が置かれている状況が違えば、経営者一人ひとりが持っている強みも異なっているため、万人に通用する仕事内容はありえません。正解がない問題に対して、考え続ける姿勢を持つことが、経営者として最も大切な資質です。

経営トップが社内の調整役を果たしていればよかった時代は、遠い昔になりました。会社にたった一人の社長が、1日24時間、1年365日という有限な時間資源の中で、「本来の仕事」をしているかどうかで、会社の5年後の盛衰が決まる時代なのです。ただし、そこには誰にでも役立つ万能解はありません。したがって、本来の経営者の仕事として唯一共通しているものは、「これからの経営者の仕事とはなにかを考える続けること」になります。
さて、会社の中で、経営者であるあなたの仕事とはなんなのでしょうか?

著者プロフィール

株式会社ワイズエッジ
代表取締役 経営コンサルタント

清水 泰志 氏

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)のコンサルタントとして金融機関、製造業、サービス業、国・地方公共団体等をクライアントとする複数のプロジェクトに参画する。同事務所を退所後、建設資材商社に後継者として入社。社長就任後、法的整理による事業の清算を行う。自身の反省点を踏まえ、その後は企業再生支援に取り組む。その過程で、企業が持続的に繁栄するためには、「好調なとき」にこそ経営改革を行うべきだ、との信念を持ち、今では好調企業の指導に軸足を移している。「経営者は小手先の技を身に付けるのでなく王道を行くべし」をモットーに、経営者の成長を促すため、耳が痛い質問や助言を厭わないコンサルタントならぬインサルタントとして、活動の場を全国に広げている。

清水 泰志 氏

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