2022年9月1日更新

働き方環境の変化に対応したバックオフィス業務の効率化

尾田 友志 氏

第1章 事務処理業務の改善の前に考えておくこと

事務処理業務の効率化のポイント

「ルーチンワークをなくしたい・事務処理業務を軽減したい」という声をよく耳にします。ただし、基幹システムの入れ替えには多大なる投資が必要となってしまいます。昨今では、社員の立替経費申請のアプリケーションのような周辺システムを活用している会社も増え、単純な事務処理業務を減らすことは十分可能になってきています。
しかし、周辺システムの導入前にぜひとも考えておく必要がある事項があります。それは、

  • 部分的な事務処理業務のシステム化や業務軽減ではなく、月次決算早期化に結びつけ、経営意思決定を素早く行うこと
  • 顧客マスタ・仕入先マスタの一元化を視野に入れること
  • 情報共有を行い、業務の進捗度を管理すること

です。

事務処理業務の効率化は、会計システムからスタートする

下の図は、会社の一般的な受発注業務・経費処理業務・給与業務を表しています。受注業務(受注票)から始まり、最終的にはすべてのデータが会計システムに流れ込むように書いてあります。

いくら受発注等の基幹業務が自動化されていても、最終的に仕訳データが会計システムに流れてくる時に、経理部がマスタ情報の追加登録・部門振り分け等の修正仕訳をしているようでは、事務処理が効率化されているとは言うことができません。今後の売上増大にともない、経理業務量は増え続けてしまいます。ここで皆さんの会社で考えていただきたいのは、次の点です。

  • 月次業績検討会議では、どのような集計単位で業績を見たいのか
    事業セグメント別、販路別、主力商品別、地域別など
  • 経理部が修正仕訳を行わないためには、基幹システム等でどのような単位で仕訳データを生成すればよいか
    あらかじめ上記のセグメント別・主力商品別などで仕訳データを集計します
  • 各種システムと会計システムのデータ連携方法
    カスタマイズによるシステム間データ連携は、片方のシステムがバージョンアップすると、両システムとも改修することになりやすいです。CSVファイル連携以外に、API連携・RPAによる転記入力を検討します

会計システムからさかのぼって検討する

各種システムから仕訳データを受入れ、ほぼそのまま月次決算ができる目処が立ったら、今度は前工程の検討を始めます。着目したい点は、コストドライバーです。コストドライバーとは、「仕入先企業数」のように、業務量の増減に直接影響を及ぼす要因のことです。データ連携やアプリケーションを使ってコストドライバーを管理することで、季節による業務量変動の影響を受けにくくなるばかりか、今後売上が増大しても間接人員数を抑えることが可能となってきます。

第2章 EDIによって受発注業務の自動化を実現する

事務処理効率化の効果が大きいのは、受発注業務の自動化

皆さんの会社では、経費申請・勤務日報管理・給与計算等は、アプリケーションや既存システムを使って、自動化されていると思います。ポイントは、第1回目コラムでも触れましたように、会計システムにデータ連携がなされることです。連携のために両システムのインターフェースを作り込むと、アプリケーションがバージョンアップした際に再度インターフェースを作り替える必要が出てくることから、APIを使うことをお勧めします。
さて、間接業務の事務処理業務の軽減で効果が最も高いのは、販売受注管理・仕入購買管理すなわち受発注業務と言えるでしょう。

手作業で受発注業務を行っていると、次のような業務が現場の時間を奪っていきます。

商社・卸売業では、仕入先・顧客という取引先の数が多く、入力作業だけでも相当な時間が掛かっています。
しかも、現場に「何か問題はないか?」と問うても、手作業で行うことが当たり前だと考えていると、「特に問題はありません」という回答が返ってきてしまい、業務改善の対象から漏れてしまいます。

EDIという選択肢を考えてみる

EDIとは、仕入先と自社・顧客と自社の間の取引情報をデータでやりとりをする仕組みです。

顧客からの受注情報をデータで取り込んだら、そのデータを使って仕入先に在庫問い合わせ・発注業務を行い、なおかつ仕入先請求データも受け取ることができます。
ただEDIには、メーカー独自EDI・標準EDI・業界VAN・Web-EDIなどの複数の規格が存在しており、自社システムと接続するには、文字コード変換・レイアウト変換・データコード変換などが必要になります。これが導入の敷居を高くしていると考えられます。中堅商社の中には、10種類以上のデータ変換プログラムを動かしているところもあります。
とはいえ、一度稼働すれば目に見えるメリットを教授することもできるのが、EDIです。

  • データがリアルタイムで入手でき、在庫計画・販売計画に活かせる
  • 紙を排することで、購買担当者は自分の勤務場所を問わず、全国拠点の業務を行うことができる
  • 顧客-自社のEDIはデータの入力事務作業を顧客が担ってくれ、売上が増大しても事務コストは伸びにくくなる(規模の利益が出やすい)

経済産業省も、日本企業の生産性向上を目的として、中小企業共通EDIの導入に取り組んでいます。制約が少ないうちに、皆さんの会社から手がけてみてはいかがでしょうか?

第3章 照合・消込作業を、社内からなくす

請求書の入金照合・消込は工数を消費している

EDIを使った、仕入先との受発注データの処理を軽減する方法を、第2回で紹介しました。同様に、皆さんの会社と顧客との間の取引もEDI化できれば、顧客の仕入明細を使うことができるので、入金照合・消込の手間を大幅に減らすことができます。
EDI化されない場合、通常次の方法がとられています。

  1. 被振込専用支店
    ひなぎく支店・あじさい支店などのような名称で、実店舗のない支店名と口座番号を顧客ごとに準備をして、振り込んでもらうものです。1顧客または1請求書にひとつの口座が割り当てられますので、振込の照合が簡単にできます。
  2. 銀行の入金消込サービス
    自社の請求データ(CSV)を銀行に渡し、銀行側で請求と入金を照合してくれるサービスです。請求金額と入金金額の差額があれば、これも書き出されますので、入金後すぐに原因分析・対処ができます。
  3. FBデータの取込・消込
    現時点で、一番多い方法です。FBのCSVデータをダウンロードして目視でチェックするよりは、Excelの関数を使って自動照合する方が良いでしょう。できればRPAでFBデータの取込みから自動化すれば、担当者が退社する前にエンターキーを押しておくだけで、翌朝には業務が終了していることでしょう。

非付加価値業務をしない会社を目指す

社内には「やらなくて良い仕事」は、ほとんどありません。必ず何らかの目的があります。ただし、売上・利益・顧客満足度の向上に結びつく『付加価値業務』と、結びつかない『非付加価値業務』があります。この『非付加価値業務』を徹底的に排除していただきたいのです。
第1回コラムでご紹介した「コストドライバー」に着目し、これを押さえる方法・ツールを探してみてください。もしも、皆さんの会社で困っておられることがあれば、他の会社でも同様であり、何らかのツールやサービスがあります。
そして目指す姿は、

  • 売上が増えても、事務コストが増えない仕組み
  • 社員がどこにいても、仕事を進められる環境作り
  • ある拠点の社員が、他拠点の仕事を支援・代行できる仕組み

です。

データの転記入力や照合・確認のために使っている時間を、もったいないと思われませんか?
入力担当者はそれが自分の仕事だと思っていると、「当たり前」のことであり、改善の問題意識が出にくいものです。皆さんの会社の収益を守り、未来を作っていくためにも、今一度「当たり前」を見直してみてください。必ず解決方法があります。

著者プロフィール

尾田 友志 氏

日系コンサルティング会社 開発部 コンサルタント、青山監査法人/ プライスウォーターハウス(現、PwCあらた有限責任監査法人)シニアマネージャー、中央青山監査法人/プライスウオーターハウスクーパース ディレクターを経て、現職。スターティア株式会社 社外取締役(兼務)。
<専門分野>財務・管理会計・経営工学(統計・オペレーションズリサーチ)

尾田 友志 氏

ページの先頭へ