2019年01月21日更新

医師や看護師の人材確保 第03回 人材確保後にすべきこと

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘 氏

過去2回のコラムで、医師や看護師の人材確保についお話ししたが、今回は確保後のことについて考察する。苦労してせっかく良い人が入職してもらったのだから、長く勤めてほしいと思うことは誰でも考える。しかし、実際には、医師や看護師の離職率は医療関係職種の中でも特に高いことは良く知られている。その要因のひとつは、「転職が容易にできる状況」にあることが挙げられる。病院は、医師がいなければ何の指示も出せず、医療行為ができない。看護師も入院部門では、一定数いないと病院の収入額に直接影響を及ぼすなども要因となり、圧倒的な売り手市場である。転職先に困らないのである。

より給料が高いところに転職を繰り返す人もわずかではあるが存在する。このような人は、働く上で最も重要なことは、「給与」と考えている。しかし、このように仕事に求めるもの、働く上で最も重要なことは人それぞれである。弊社が実施している病院職員満足度調査の中に、「給与」、「教育」、「人間関係」、「休み」の4つの選択誌を働く上で重要視している順に並べ替えてください。という設問がある。結果は「人間関係」と「給与」を順列の最初に持ってくる(最も重要視している)職員が多い。また年代順に集計してみると、若い世代ほど多種な組み合わせ数があり、年代が上に上がるにつれ、組み合わせ数は少なくなってくる。これは、若い世代は多様な考え方があり、年代が上がるにしたがって、重要視する順序の考え方が集約化してくると推測される。さらに50歳代以上の年代では、最も重要視する項目は、給与でも人間関係でもなく、「教育」と回答する人が最も多くなる。
このように、離職させない対策は決して高い給料で引き留めることだけではないのである。では給与以外に長く勤務してもらうポイントはなんであろうか。それはその人個人の価値観にどれだけ近づけるかということである。例えば、外科系の医師にはよくあることだが、専門医の取得を目指しているとする。専門医の取得には症例数や手術件数などが取得の条件となっていることが多い。大学病院等に残っている医師の中には、中々自分に患者が回ってこなくて専門医の取得に時間がかかってしまうこともある。このような目的がある医師には、外来コマ数を多く割り振ったり、手術室の確保などにも配慮するようにすればよい。ある病院で、まだ放射線治療器が珍しかった頃、他病院に先駆けて治療器を導入した病院があった。この病院には導入した放射線治療器を使って論文を書きたい医師や、使ってみたい医師などが全国から集まったという。

また看護師の中には認定看護師になりたいと考えている人も少なくない。認定看護師だけではなく、看護師をはじめ医療関係者は実に様々な資格に興味を持ち、勉強を続けている。しかし中には、実習が課せられている資格があったりして仕事をしながら合格することが難しいケースもある。そのような時に勤めている病院が資格取得や勉強、研究などを支援してくれる制度があったらどうだろうか。ある病院では、ある資格の取得を目指している看護師の1年間の休職を認めただけではなく、休職中の給与保証、住宅手当補助などの支援を行っている。この看護師に話を聞く機会があったが、病院に非常に感謝していた。資格を取得後は必ずこの病院に戻って、病院のためになりたいとも言っていた。
人には様々な価値観があるので、その個別の価値観に沿うような体制作りが人材確保後には必要であるということだが、前述したようにやはり、給与が最も重要であると考えている人は多いことは紛れもない事実だろう。では満足するまで際限なく給与を上げられるかといったら、それは現実的ではない。また給与は、いくらもらったから満足するといったものではなく、いくらもらっても満足しないものである。そこで、医師であれば年棒制の導入や、インセンティブ給の導入の検討を推奨する。医師個人別の原価計算などの結果を活用し、次年度の年棒や賞与を決める制度にするのである。とかく勤務医は勤務先の経営状況には関心が薄い。医師の年棒制を導入すると、医師自身の給与額にも影響するので、無関心ではいられなくなる。年棒制といっても、何種類かの年棒制があり、完全歩合制の年棒制から、一定額を固定給としておき、残りの額を年棒制とするなどここにも工夫の余地がある。医師の性格や力量、価値観等を総合的に判断するのが良い。

さらに特定の術式1件に対してインセンティブの設定を行うことも効果が高い。どの術式にどのくらいインセンティブを付けるのかは、事前にこれもクリニカルパス別原価計算などの結果から、病院にとって利益幅が大きな術式を設定しておけばよい。しかし、年棒制やインセンティブ給は、全ての医師に適用するものではないし、ましてや強制的に実行するものでは決してない。医師の意向や性格はもちろん、診療科の特性によって不利な条件になる医師もいるので、導入効果は高いが、その検討は慎重にすべきである。
さらに近年では医師事務作業補助者という職種ができている。以前の医療秘書のような職種だが、医療秘書よりは専門性が高い。年棒制にせよインセンティブ給にせよ医師は、忙しくなるので、そのサポート者としてこの医師事務作業補助者を付けることもある。ある病院では、原価計算で一定額の利益額をコンスタントに出す医師には、医師個人に1名の医師事務作業補助者をつけている。(それ以外は診療科に対して複数の医師事務作業補助者という形)図らずもこれが、病院内の医師のステータスにもなっており、早く、自分の医師事務作業補助者が付くように頑張っているという医師もいるくらいだ。

最後に人間関係についてだが、この問題解決が最も難しい。自分と相手が合うかどうかは、感性の問題でもあるからだ。しかしだからといって何もしないわけにはいかない。パワハラやセクハラなどのハラスメントが、社会問題視される時代だが、ハラスメント対策はもちろん実施すべきである。その上で、離職にまで至ってしまうような人間関係の対応策を実施すべきである。人間関係と言っても広いが離職まで至ってしまう人間関係は、上司部下の関係が最も多い。この場合の対策は、上司にコーチングを勉強してもらい、理解し、コーチングのテクニックを活用してもらうことで、ある程度解決する。コーチングについては紙面の関係上、説明は省くが、コーチングによって部下に対する上司の態度が変わる。上司の態度が変化すれば、部下の考え方も変化する。 以上のように、医師や看護師等の人材確保は、非常に難しく、その貴重な人材を確保した後も様々な施策を講じる必要がある。「個人のニーズに合わせた働きやすい職場環境を構築する。」という当たり前のことではあるが、困難のことをやり続けることがポイントである。

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著者プロフィール

株式会社FMCA
代表取締役

藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

1984年:医療関連企業入社
営業を経て、医療機関の運営改善や業務改善など大型プロジェクト専門職、医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事
2005年:退職及び株式会社FMCAを設立し同社代表取締役に就任

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

執筆
「病院のマネジメント」共著 建帛社
「医療機関における原価計算の取組み」、「診療圏調査への取組み」
「紹介率と医療連携」(完全返信を目指したシステム構築と運用)
「診療所における診療録の電子化についての一考察」
「新入社員のための教育研修ガイドライン」(ユニット1:医療とは何か?)日本衛生検査所協会 他
藤井昌弘の「医療・介護のWhat do you think?」(大塚商会)など継続掲載中

会員 他
日本医療・病院管理学会 会員
NPO法人HIS研究会 会員
MJS税経システム研究会 客員研究員(研究テーマ:戦略的医療機関経営)
埼玉女子短期大学 非常勤講師(担当科目:コーディング、医療法規等)
早稲田速記医療福祉専門学校 兼任講師(担当科目:財務諸表/原価計算・医療経営指標など)

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