2018年12月13日更新

医師や看護師の人材確保 第02回 人材派遣会社との付き合い方

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘 氏

医療機関にとって医師や看護師の確保は、直接収益に結び付く問題である。病院は求人サイトに掲載したり、看護部長は全国の看護学校に挨拶回りに行き病院紹介を行うなど東奔西走の毎日である。それでも必要な人数が集まらない。ということも少ない。そのような時に、医師や看護師を紹介してくれる人材紹介会社、人材派遣会社の活用を検討する。あるいは実際に活用する病院も多いことであろう。
そこで今回は、人材紹介、派遣会社と上手に付き合うためには、何に気を付けなければいけないかを考えてみたいと思う。
最初に、人を紹介されるという、その「人」であるが、単に医師や看護師のライセンスを持っているだけではなく、できれば人柄がよく、医療技術が優れた「人」が良いに決まっている。そのような理想に近い「人」を紹介されるためにどうすれば良いのかということを軸に考えていきたいと思う。

医療機関にも様々な特徴がある。急性期や慢性期など単に急性期といっても、癌、心疾患など診療分野や診療科目などのこともある。また外来や入院など医療機関が働いてもらいたい場所であることもある。自院にとって、どんな「人」を紹介してもらいたいのか希望、要望、あるいは雇用条件なども明確にして、人材派遣会社に伝えることから始まる。通常だとここで、人材紹介会社は、医療機関からの希望、要望、雇用条件に沿って該当する人を探し、医療機関に紹介するわけだが、医療機関は一方的に人材紹介会社にこちらの要望などを伝えるだけではなく、人材紹介社の条件や要望などにも耳を傾けてほしい。人材紹介も一種の契約に基づいて実施するものであるから、後から思っていたことと違うということを防止する意味と、お互いに譲れない一線を予め明確にし、その一線をお互いが共有しておくことが重要である。一線を明確にしておかないと、長年の契約関係から「なぁなぁの関係」になってしまうこともあり、そのような関係になると、仮に断らなければならない時に断れなくなってしまうことも考えられる。契約の長短に関わらず、常に一定の緊張感を保つようにすべきである。
そのためには、一定の距離を置くことである。これは人材派遣会社に限ったことではない。様々な取引会社との付き合い方にも共通していることである。前述した一線を越えて距離が近くなり、その相手の会社(担当者)と親しくなった場合、仮に断らなくてはいけない場合に断りづらくなってしまう。相手は、そのような心理になることを意図的に狙って近づいてくることもある。
では、一定の距離を保ちながら、しかも相手からは親しみを持ってもらうためには、どうすれば良いのだろうか。それは、相手の話を聞くことに徹することである。相手の会社に興味を示し、担当者に興味を示し、色々な話を聞くことである。相手の話をうまく聞き出すには、多少テクニックが必要である。いくつか紹介すると、まず聞く態度であるが、相槌と的確な質問がポイントである。これらができると、真剣に自分の話を聞いてくれているという感情が相手に湧く。その質問についても、鋭い質問、深い質問ができれば、相手は自分のことを一目置いてくれることにもなる。鋭い質問や深い質問など難しく考えることは無く、質問する際に仮説を立てながら、質問を考えるということを意識していれば良い。仮説を立てるのに、事前に相手の会社のホームページなどで情報収集しておくなどの準備はしておく必要はある。ここで一点、注意がある。それは、相手の話を聞くことは重要であるが、自分のプライベートな情報は、相手に伝えないことである。相手と親しい関係を望む際に、自分のプライベートな情報も伝え、親しみを持ってもらうということは考えがちだが、自分のプライベートな情報が、相手から羨ましがられる、妬まれる、コンプレックスを持たれるなどの負の感情を引き起こすこともあるので注意が必要である。

次に価格交渉についてであるが、特に医師を紹介してもらう時の紹介会社との価格交渉は、十分に注意してもらいたい。医師の紹介料は非常に高額であり、医療機関側にとって、非常に大きな支出となることも理解するが、一方的に価格の値引きを要求するデメリットも考慮に入れなければならない。具体的には、値引き要求を受けた会社(担当者)は、モチベーションや顧客である医療機関に対する親近感などが下がると推測される。すると、低いモチベーションの中で紹介された医師が、優秀な、医療機関にとって願ってもいない医師だろうか。そのようなことはまず無い。相手も「人」である。値引きを要求してきたからといって、あからさまに手を抜くことは無いだろうが、医療機関のことを想い真剣に探す最後のひと手間を省いてしまうことは考えられる。お互いにWin‐Winの関係を目指すということが取引の大原則である。常にお互いにそのような関係であることは困難かもしれないが、常にお互いにそのような関係を「目指す」ことはできる。この姿勢こそが重要である。

最後にトラブル発生時についてである。いつも取引が順調にスムーズに行われるとは限らない。時に思いがけないトラブルが発生する場合もある。そのような時の注意であるが、医療機関側は顧客に該当する立場であることから、自分たちの主張を一方的に言うことがある。事実関係を明らかにするのであれば良いのだが、その主張の中には推測なども混ざっていることもあり、また感情的になっての発言もあるかもしれない。これでは前向きな良い解決策にたどり着くことは難しい。まずは冷静になり事実関係を共有認識し、その上でお互いの立場を明らかにして、双方にとって最適な着地点を探すということを行う。決して自分たちだけが良いという直地点を探すのではない。具体的な着地点については、複数の選択肢を準備し、その中から選ぶということがお互いに納得が得られやすい。このような交渉の過程でも、相手の話を聞くということが重要である。

人材紹介は、「人」が「人」を「人」に紹介ということである。そこにはそれぞれの立場で人間の感情が存在する。その感情を無視して、ビジネスライクに紹介してもらうことは結果的には、良い「人」が集められないと考える。

著者プロフィール

株式会社FMCA
代表取締役

藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

1984年:医療関連企業入社
営業を経て、医療機関の運営改善や業務改善など大型プロジェクト専門職、医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事
2005年:退職及び株式会社FMCAを設立し同社代表取締役に就任

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

執筆
「病院のマネジメント」共著 建帛社
「医療機関における原価計算の取組み」、「診療圏調査への取組み」
「紹介率と医療連携」(完全返信を目指したシステム構築と運用)
「診療所における診療録の電子化についての一考察」
「新入社員のための教育研修ガイドライン」(ユニット1:医療とは何か?)日本衛生検査所協会 他
藤井昌弘の「医療・介護のWhat do you think?」(大塚商会)など継続掲載中

会員 他
日本医療・病院管理学会 会員
NPO法人HIS研究会 会員
MJS税経システム研究会 客員研究員(研究テーマ:戦略的医療機関経営)
埼玉女子短期大学 非常勤講師(担当科目:コーディング、医療法規等)
早稲田速記医療福祉専門学校 兼任講師(担当科目:財務諸表/原価計算・医療経営指標など)

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