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ユーザーエクスペリエンスデザイン


雑誌FUJITSU 2017-5

2017-5月号 (Vol.68, No.3)

ICTのデザインは,技術の発展とともに領域が拡大しています。富士通では,お客様のニーズや社会のトレンドにあわせ,利用者の視点を重視したプロダクトデザインやユーザーインターフェースデザインを実践しております。そして新たに,ICTを含む利用者の包括的な体験を創造する「ユーザーエクスペリエンスデザイン(UXデザイン)」を展開しています。
本特集では,UXデザインの手法やプロセスを適用したお客様事例,UXを実現するための技術の活用,関連する製品・サービスの開発を紹介します。


巻頭言

ユーザーエクスペリエンスデザイン特集に寄せて (511 KB)
執行役員常務, 阪井 洋之, p.1

総括

富士通のユーザーエクスペリエンスデザイン (706 KB)
上田 義弘, 松本 啓太, 善方 日出夫, p.2-7
ICT分野では,ビッグデータ,IoT(Internet of Things),ロボティクス,人工知能(AI)などにより,今までとは桁違いのスピードでデジタル革新が進展している。人が中心となって創造的に価値を生み出していく豊かな社会を目指して,どういう場面で,どのようなかたちでICTを利活用するのか,今,新たな提案力が問われている。これからのデザインの向かうべき方向は,人や社会,技術を理解し,人の経験や行動原理をベースにビジョンを描き,未来のエクスペリエンス(体験)とそれを実現する仕組みを考え,必要なサービスやプロダクト,空間まで一貫して開発することである。そのためには,未来に向けてビジョンやエクスペリエンスを描く方法論が必要である。
本稿では,ビジョンやエクスペリエンスを描く方法である「UXデザイン(ユーザーエクスペリエンスデザイン)」について,デザイン思考や人間中心設計(HCD:Human Centered Design)との関係を示し,その発展の経緯を概説する。その上で,富士通における最新のUXデザインのフレームと手法を紹介する。

お客様事例

パラマウントベッド様スマートベッドシステム™におけるサービスビジョンデザイン (1.15 MB )
中島 亮太郎, 坂口 和敏, p.8-13
近年,ビジネスの現場においてユーザーの視点で課題を捉え,デザイナーの感性と手法を用いて創造的に解決策を発想するデザイン思考を取り入れる動きが普及してきた。それに伴って,デザイナーの活動領域は従来のモノの形のデザインだけでなく,サービスなどの目に見えない価値である「コトのデザイン」にまで広がってきている。そのような背景の中,富士通デザイン株式会社では,ユーザー視点に基づいたデザイン手法を活用し,機器・画面デザイン・空間設計・情報伝達などの提案や開発を行っている。今回,パラマウントベッド株式会社様(以下,パラマウントベッド社)と介護医療分野におけるサービスビジョンを共創し,ムービーとして未来のベッドのあるべき姿を具体化することになった。
本稿では,パラマウントベッド社が開発した,ICTを使って様々な生体情報を一元管理する「スマートベットシステム™」のサービスビジョンを紹介するムービーを,ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインの観点から制作した取り組みについて述べる。
英国伝統のオーダーメイドサービスをモダナイズするUXデザインのプロセス (1.03 MB )
藤原 和博, p.14-19
近年,ユーザーエクスペリエンス(UX)の考え方が様々な体験に用いられるようになってきた。富士通デザイン株式会社では,お客様との共創プロセスの中で特別なオーダー体験とはどうあるべきかを考え,プロトタイピングを複数回実施するといったUXデザインのアプローチを実践している。
本稿では,グローブ・トロッターアジアパシフィック株式会社様のトラベルケースなどをオーダーメイドするサービス「マイ・オンリー・トロッター」におけるトータルUXデザインの構築を紹介する。本サービスは,従来からある伝統的なオーダーメイド(ビスポーク)に,プロジェクションマッピングや3D-CGなどのICTを融合させ,オーダーメイドそのものを特別な購買体験として提供するものである。
UXの価値向上を目指したスマートフォンアプリのデザイン ~かわさき子育てアプリ~ (983 KB)
西田 善彦, p.20-25
2014年2月に,川崎市と富士通はビッグデータ・オープンデータの活用に関する調査・研究などのテーマで包括協定を締結した。川崎市が市民に提供する「かわさきアプリ」は,位置情報とLOD(Linked Open Data)を活用して子育てや防災に関する情報の提供を目的としたものである。この包括協定の一環として,スマートフォン向けの子育て支援アプリを通じて市民へタイムリーに情報提供できる仕組みの検討が行われた。筆者らは,子育て支援アプリのデザインを担当し,子育て中の親を対象にして,アプリ利用シーンなどのユーザーエクスペリエンス(UX)を考慮した開発を行った。2015年1月に麻生区で子育て支援アプリの実証実験を開始し,アプリを利用したモニターの約8割から「便利」「継続して使いたい」という回答が得られた。麻生区のモニターおよび職員の評価結果を踏まえて,川崎市は,市全体へ本アプリを展開することを決定し,2015年6月より本開発を実施し,2016年4月に「かわさき子育てアプリ」を提供された。
本稿では,開発した子育て支援アプリのUXデザインプロセスについて述べる。
販売管理システムへのUXデザイン適用と推進活動 ~UXデザインをもっと当たり前に~ (978 KB)
岡田 一志, 小川 俊雄, 田中 新司, 横田 洋輔, p.26-30
ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインは,ユーザーの本質的なニーズを抽出した後にシステムで実現すべきこと(ユーザー要件)を整理し,その有効性を素早く検証するアプローチである。富士通では,数多くのプロジェクトで得られたUXデザインの実践知を体系化し,システム開発へのUXデザインの適用を推進している。全国各地に加盟店(個人商店)を抱えるA社様では,加盟店向けに提供している販売管理システムの再構築において,「顧客接点強化に向けた機能提供」「直感的な操作性の実現」を求められていた。この要望に対して,富士通はUXデザインの適用によって課題を解決した。
本稿では,UXデザインの適用事例として,A社様の販売管理システムの再構築を紹介する。更に,富士通のSE部門を中心としたUXデザインの全社推進活動を紹介する。
デザイン思考を活用した港区麻布地区の地域コミュニティ「ミナヨク」活動支援 (941 KB)
高嶋 大介, 出井 英恵, 上保 裕典, 島 久美子, p.31-36
昨今,若い世代が地域コミュニティに参加しないことに危機感を抱いている町会(地域の自治会)は少なくはない。東京都港区麻布地区においても,区の人口は年々増えているものの,若い世代の定住率の低下に伴って町会の加入率も伸び悩み,長期的に見ると町会の運営が立ち行かなくなることが懸念されていた。富士通は,港区六本木に「HAB-YU platform」という,人と地域と企業を多種多様な方法で結うことを目指した共創の場を2014年9月に開設した。HAB-YU platformでは,デザイナーの感覚と手法でビジネスに利用できるように体系化したデザイン思考を使って,多くの企業や自治体とビジョン策定やアイデア創出を行ってきた。2015年,港区麻布地区総合支所から,地域コミュニティ活性化事業「ミナヨク」の企画・運営を一緒に取り組んでほしいとの要請を受け,HAB-YU platformで地域を担う人材育成講座を開催することになった。
本稿では,デザイン思考を使ったアプローチで,若い世代でも参加したくなる「いまどきのご近所付き合い」をテーマに,2015年度に実施した全6回の人材育成講座について述べる。

UXを実現するための技術

新しいUXを生み出す共創実践の場 ~FUJITSU Knowledge Integration Base PLY~ (1.01 MB )
日高 豪一, 高崎 徹, 佐々木 泰樹, p.37-42
デジタルビジネス時代の到来に伴い,デジタルテクノロジーを活用して新たな価値を生み出す試みが始まっている。その実現には,従来の工程に従って行うウォータフォール型の開発だけでなく,製品やサービスの利用を通じて得られるユーザーエクスペリエンス(UX)を重視して,お客様とともに開発することが求められる。そういった共創実践の場として,2016年5月に富士通ソリューションスクエア(東京都大田区)に作られたのが,FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(以下,PLY)である。PLYは,これまで共創を実践してきたSEが使いたいと思える環境づくりやコンセプトをSEとともに考え,お客様と新たな価値を生み出すことのできる場を目指して開設した。
本稿では,PLYの場作りや共創に向けた取り組みについて述べる。
人々のコミュニケーションを活性化する空間UI技術 (1.15 MB )
岡林 桂樹, 宇山 政志, 由良 淳一, 武 理一郎, p.43-49
部屋全体,廊下全体がディスプレイやタッチパネルの機能を持ち,そこに自分の端末の画面を映し出し,ほかの人と容易に情報交換できることで,端末画面にとらわれないコミュニケーションを実現するというコンセプトを実現した技術が「空間UI」である。この技術は,人々をパソコンやスマート端末などの狭い画面から解放し,壁や机などの広い共有の空間での仮想的なウィンドウシステムを実現でき,簡単な操作で情報の表示や共有を可能とする。例えば,ワークショップに参加した人のスマート端末と会場にある表示機器が連携し,スマート端末の画面を壁や机に大きく映すことが可能である。ウィンドウシステム上の操作は逐次スマート端末に伝えられ,スマート端末間の情報交換が直感的な操作で簡単に実現可能である。
本稿では,この空間UI技術について,コンセプト,試作したシステムの概要,および今後の展開について解説する。
共創ワークショップにおける独自手法・ツールのグローバル展開 (814 KB)
宇多村 志伸, フォンティン 徳康, 竹田 恵一, 平原 聖士, p.50-55
富士通は,ICTとデザインで新たな価値を体験・開発する場を作り,そこでお客様との共創によるワークショップを開催している。この共創ワークショップは,取り上げられたテーマについて課題の発見や解決を狙いとしたもので,富士通が独自に開発した手法やツールを用いて実施されている。近年,富士通の海外拠点においても,共創ワークショップの開催ニーズが高まっていることから,国内で使用している手法やツールの汎用性を検証した。その結果,これらの手法やツールは,日本らしさを感じさせるものであり,海外でも受け入れられることが分かった。
本稿では,まず港区六本木が拠点である「HAB-YU platform」で展開している手法やツールを紹介する。そして,海外でそれらの手法やツールを使った共創ワークショップの実践事例と考察,およびそこから見えてきた課題や展望について述べる。

製品・サービス開発

教育現場の声から生まれたスクールタブレットARROWS Tab Q506/MEのUXデザイン (793 KB)
中島 公平, 栗山 やよい, 児島 宏治, p.56-61
ビジネスの現場で利用が進んでいるタブレットの新たな市場として,文教分野が注目されている。ICT教育を推進する政府や文部科学省などの支援などもあり,児童生徒一人1台のタブレット整備が進められている。これまで富士通はARROWS Tabシリーズを展開してきたが,現場で故障やトラブルに見舞われ,なかなかこの市場で支持を得ることができずにいた。これに対して,教育現場で得られた気づきを基に,子どもたちが使う際の最適なユーザーエクスペリエンス(UX)を追求した製品を開発することとした。こうした取り組みにより,スクールタブレットARROWS Tab Q506/ME・Q507/PEが開発され,文教向けタブレットシェア67%(2015年度)を獲得するに至った。
本稿では,教育現場で得られた気づきやそれに基づくQ506/MEのUXデザインの詳細,市場での評価などについて述べる。
サービスデザインプロセスを活用した新しい製品開発アプローチ:次世代イベントソリューション「EXBOARD」 (1.19 MB )
金丸 隆之, 出水 裕樹, 原野 陽輔, 平田 昌大, 坂口 和敏, p.62-68
近年,競争が激化するIoT(Internet of Things)の市場において,自社の製品・サービスを他社と差別化するためには,仮説やアイデアの具現化と評価・検証を迅速に繰り返すことで精度を高め,顧客にとって価値のあるサービスや製品を提供することが重要となっている。株式会社富士通アドバンストエンジニアリングの「EXBOARD」は,センサー技術を利用したイベント運営支援ソリューションである。EXBOARDは,イベント会場で来場者が携帯しているセンサービーコンから収集したデータをクラウド上に蓄積し,エリアごとの滞留数や位置情報の把握,展示の興味・関心度など,来場者の動きをリアルタイムに可視化できる。また,収集したデータを分析・活用することで,更なるイノベーションの創出を支援できる。EXBOARDの開発では,サービスデザインプロセスを活用し,富士通デザイン株式会社のデザイナーとともにコンセプトや仮説やアイデアの評価・検証を展示会の会場内で行い,可能性や実現性を確認した。
本稿では,EXBOARDの開発,展示会場でのアプリケーションの評価・検証の概要,および適用事例について述べる。
次世代センサーシューズを活用した共創プラットフォーム「interactive shoes hub」 (1.11 MB )
田中 培仁, 高野 一樹, 京谷 実穂, 内田 弘樹, p.69-73
富士通の「interactive shoes hub」は,靴の未来を共創するプラットフォームである。その仕組みは,センサーモジュールを取り付けた靴から取得した足の動き・圧力・曲がりなどのデータをデータセンターに蓄積し,パーソナルデータやオープンデータを活用して解析した有用な情報を,アプリケーションを介してユーザーに提供するものである。また,これらの蓄積・解析したデータを,健康や安心・安全などに役立てることも目的にしている。interactive shoes hubは,靴メーカー,センサー開発者,ユーザー向けアプリの開発者など多くの関係者との共創によるオープンイノベーションによって開発を進めている。その中で,筆者らはオープンイノベーションを行う共創プラットフォームの価値を伝えるユーザーエクスペリエンス(UX)デザインを行った。
本稿では,interactive shoes hubという共創プラットフォームを効果的に活用し,新たなサービスを構築するためのUXデザインの取り組みと,その成果について述べる。
聴覚障がい者と聴者の情報共有をリアルタイムに実現するLiveTalk (1.22 MB )
小野 晋一, 高本 康明, 松田 善機, p.74-79
近年,コラボレーションやイノベーションを促進するコミュニケーションの重要性が高まってきている。その中でも,多様な人々が開発のプロセスに加わり,発想・評価・改善することで新たなユーザー体験(UX)が生まれるといったケースが出てきており,障がい者が参加する開発も注目されている。富士通が2015年4月に発表した聴覚障がい者参加型コミュニケーションツール「FUJITSU Software LiveTalk」においても,全てのフェーズで聴覚障がい者が携わり,意見を反映しながら開発を行った。LiveTalkの開発では,職場における聴覚障がい者の特性や振る舞い,聴者とのコミュニケーションの観察・共有を通じて,コミュニケーションギャップなどの課題を抽出し,それらを解決する機能を持つプロトタイプを作成した。そして,プロトタイプのユーザー評価,フィードバック,および改善を繰り返すことにより,使いやすさを向上させた。
本稿では,新たなUXデザインによって聴覚障がい者との聴者の双方向のコミュニケーションをスムーズにするLiveTalkの開発について述べる。